北海道病害虫防除所
北海道立総合研究機構
1967年に十勝管内2200haの豆類に発生したユスリカ類(エリユスリカ亜科)については、種名未詳のまま、7頭の成虫が農環研の標本館に保存されていた。それ以降はユスリカ類幼虫の加害報告がなかったが、1992年に十勝管内の有機物を施用した圃場で、ユスリカの一種Smittia akanduodecima Sasa et Kamimuraの幼虫による豆類の被害が見られた。これをきっかけに、農環研同定分類研および標本館の福原楢夫氏に依頼して種名を再調査したところ、大阪府の山本優氏により、Smittia aterrima (Meigen)が5頭、S.nudipennis (Goetghbuer)が1頭,Bryophaenoacladius nitidicollis (Goetghbuer)が1頭であったことが明らかにされた。
英国ではSmittia属の種類は、麦類・トウモロコシなどの発芽時害虫として知られる。また、Bryophaenoacladius属は温室植物の根などを加害すること、B.nitidicollisは鳥の巣から得られたことが報告されているが、いずれも生態については断片的な情報である。後者の属は、日本での作物害虫としての位置づけについて、今後の検討を要するので、当面は和名を必要としない。
これらの知見を総合すると、Smittia属幼虫の一部は、植物種子の発芽時に土中で初生葉などの軟弱組織を食害すると考えられる。この属の3種は、今後も湿性地の畑作物を加害する可能性が高いと思われる。本属には、幼虫が陸生で、成虫が黒色という特徴から、ハタクロユスリカ属(仮称)の和名を充てたい。