北海道病害虫防除所
北海道立総合研究機構
ムギスジハモグリバエChromatomyia nigra は、小麦など麦類の害虫として知られており、加藤(1950)は本種の北海道における分布について、「本州には各地に非常に多いが、北海道では少ない」と述べている。今回札幌市琴似(1960)、訓子府町(1968-1994)および留辺蘂町(1980)において麦類およびイネ科牧草(チモシー、ケンタッキーブルーグラス)に加害したChromatomyia属の標本を検討した結果、これらは全て日本未記録のChromatomyia fuscula(Zetterstedt)(キタムギハモグリバエ:新称)と同定された。本種の幼虫は麦類を含むイネ科の多くの植物の葉にもぐり、線状の潜葉痕を形成して葉の中で蛹化する。成虫は翅長2.5mm程度の小型のハエで、頭部が黄〜黄褐色で体は灰黒色、脚は黒色である。全体にムギスジハモグリバエに類似するが、頭部の色彩および複眼に生ずる微毛がまばら(複眼の数の半数以下)である点で異なる。また、ナモグリバエにも類似していて肉眼での識別は困難であるが、後者とは背中刺毛の間に中刺毛を(2列)生ずる点で異なる。平成6年の北見農試における調査では、越冬世代成虫が5月中旬から羽化し、第一世代成虫は6月中旬以降に羽化する。第一世代幼虫の寄生密度は高く、羽化成虫も非常に高密度で観察されるが、それ以後は麦類への産卵、加害は見られず、以降の発生経過は不明である。
今回検討した標本にはムギスジハモグリバエは一個体も含まれていなかったが、ムギスジハモグリバエの北海道における分布の有無については広範な検討が必要である。