北海道病害虫防除所
北海道立総合研究機構
平成5年8月下旬、札幌市西区西野の花き栽培農園でシクラメンの根及び球根部を加害するゾウムシの幼虫が発生した。この幼虫を農林水産省農業環境技術研究所昆虫分類研究室を通じ、九州大学農学部昆虫学教室、森本桂教授に同定依頼した結果、侵入害虫であるキンケクチブトゾウムシ
Otiorhynchus sulcatus Fabricius と確認された。被害を受けた株は黄化し、株全体が衰弱して簡単に引き抜ける状態であった。これらの株元には3〜4頭の老熟幼虫が寄生しており、根および球根部を激しく食害していた。被害は9月中旬現在で約1,300鉢に及び、出荷までにはさらに増加する見込みである。この農園では3年前から被害株と幼虫の発生を認めており、被害は年々増加する傾向にあるとのことであった。また、10月上旬に道内9支庁管内においてシクラメンの栽培農家を対象に発生実態調査を実施したところ、上川支庁管内愛別町北町のシクラメンで幼虫の発生が確認された、しかし発生は数鉢にとどまり、被害は軽微であった。
一方、露地栽培の花きについても数地点調査を行ったところ、札幌市の上記発生地ではインパチェンス、ベゴニアに、愛別町ではユリ科の一種、レンゲツツジに、また、岩見沢市幌向の一般住宅A宅ではホトトギス、ミヤマオダマキに、B宅ではベゴニア、パンジーおよびキンギョソウの根部に中〜老齢幼虫の寄生が認められた。キンケクツブトゾウムシは中央ヨーロッパ原産の種とされるが、現在は世界各地に広がり、花き、花木、野菜および果樹などを広範囲に加害する重要害虫とされている。わが国では1980年に静岡県でシクラメンに発生を確認したのが最初の記録である。北海道への侵入経路は明らかではないが、野外の花き類に幼虫の発生がみられることから、道内でも野外で越冬している可能性が高いと推測される。本種は単為生殖をいとなみ、寄主範囲も比較的広いことから、今後、道内での分布の拡大も懸念されるので十分注意が必要である。