北海道病害虫防除所
北海道立総合研究機構
[令和元年度新発生病害虫]
りんごのリンゴコスカシバ(国内新発生)
平成8年6月下旬、中央農業試験場(長沼町)場内の果樹園において、りんご「スターキングデリシャス」の主幹から樹液や糞粒が排出されているのを認めた。加害を受けた部位の樹皮の直下からスカシバガの老齢幼虫が採集され、室内で保管したところ、7月上旬に1頭の雄成虫が羽化した。また、同一種によるりんごへの寄生は、令和元年6月中旬にも再確認された。その被害様相はいずれも、地上1m以内の部位の樹皮に樹液が漏出し、食い屑が露出していた。これらの部位の樹皮下には2mm程度の深さで溝状に空隙が形成され、内部には体長15mm程度で体色は乳白色、頭部や胸背は赤褐色を呈する幼虫が認められた。また、この空隙内部は、しばしば褐色の樹液が充満していた。幼虫の発育は個体差があるようで、6月中旬には中齢個体を含む幼虫が認められた他、6月10日にすでに営繭した内部で蛹化している個体もあった。7月中旬には、老齢幼虫も認められた一方、確認した多くの事例で営繭、蛹化が済んでおり、本種の主要な蛹化時期は7月上・中旬と考えられた。
平成8年に得られていた羽化成虫は、令和元年に矢田直樹氏によりリンゴコスカシバ Synanthedon haitangvora Yangと同定された。本種の記録は、国内では初めてである。成虫の形態はコスカシバSynanthedon hectorに似ているが、後者の腹部第4、5節腹面が広く黄色であるのに対し、リンゴコスカシバは腹部第4節腹面は後縁のみが全幅に渡って黄色を帯び、第5節腹面は中央付近に黄色部を有することが特徴である。海外では中国および韓国において、リンゴ属に寄生することが知られている。道内の一般園における分布や発生状況は不明である。ただし、無防除で栽培している当該園地では、幹の径が20cmを上回るような壮年木の多くが本種の被害を受けており、令和元年の調査では、5個体もの羽化を認めた樹もあった。このように、無防除栽培では本種の幼虫による樹幹被害は樹体の生育に対して少なからず影響を及ぼしている可能性がある。本種の成虫が羽化すると推測される時期は、他の害虫を対象とした農薬散布が励行されている時期に相当することから、薬剤防除を実施している園地では、密度は抑制されている可能性がある。
(北見農試・中央農試)
リンゴコスカシバ幼虫 (岩崎 原図)
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