北海道病害虫防除所
北海道立総合研究機構

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平成26年度に特に注意を要する病害虫


秋まき小麦の赤さび病

秋まき小麦のなまぐさ黒穂病

春まき小麦のムギキモグリバエ

たまねぎおよびねぎのネギハモグリバエ

各種作物のヨトウガ


(1)秋まき小麦の赤さび病

 平成25年は、道内各地で秋まき小麦において赤さび病の発生が認められ、現況調査によると、被害面積率は上川および十勝地方では10%以上、空知、石狩、後志および胆振でも5%前後となり、道内全体では9.3%(平年0.8%)と近年にない多発生となった。平成25年は5月下旬から6月上旬にかけて高温少雨傾向で、本病の発生に適した気象条件であったことが多発要因のひとつと考えられる。さらに、抵抗性が「やや強」の品種である「きたほなみ」でも全道的に発病が認められたことが特徴的であり、発病程度が被害許容水準に迫る事例も散見された。「きたほなみ」の抵抗性が打破されたと一概には言えないものの、予察定点ほ場では秋季調査(平成25年10月6半旬)において、長沼町で病斑面積率0.02%、芽室町で同0.01%、訓子府町で同0.09%と、過去の秋季調査と比較して多めの発病を認めている。このため、平成26年も発生に好適な気象条件が続けば「きたほなみ」でも多発する可能性があり注意が必要である。 

 本病の防除は、開花始の薬剤散布(赤かび病と同時防除)を基幹防除とし、抵抗性‘弱’品種の場合は、それ以前に止葉抽出から穂ばらみ期にも薬剤散布を行う必要がある。現在の主要品種は「きたほなみ」であるが、条件によっては多発する危険性があることから、赤さび病に対する抵抗性と関係なく、越冬後の本病の発生推移をよく観察することが重要である。本病の被害許容水準は、開花始における止葉の病葉率25%である。止葉が抽出するまでに下葉に病斑が目立つ場合には、止葉抽出から穂ばらみ期にも薬剤散布を実施する。散布タイミングが遅れると十分な防除効果が得られない場合が多いので、防除適期を失しないように注意が必要である。
 



写真 秋まき小麦「きたほなみ」に発生した赤さび病(平成25年5月撮影)(中央農試 小野寺 原図)




(2)秋まき小麦のなまぐさ黒穂病

 北海道における小麦のなまぐさ黒穂病の発生は古くから報告があるが、戦後は発生記録がほとんどなく、発生が認められた場合でもごく一部の事例に限られていた。しかし、平成25年は3振興局内の複数の地域で発生が確認され、その中には激発事例も認められており、今後の発生動向に注意が必要である。

 本病の罹病株は健全株に比較し稈長がやや短くなる傾向にあるが、発生が軽微な場合は外観上の識別が困難である。病穂はやや暗緑色を帯び、内部には茶褐色の粉状物(厚膜胞子)が満たされるが、外皮は破れにくいので裸黒穂病のような胞子の露出と飛散はない。病穂は生臭い悪臭を放つので、本病が発生すると減収のみならず、異臭による品質低下を招く。さらに、汚染された生産物が乾燥・調整施設に混入した場合、施設全体が汚染されることとなり被害は大きくなる。

 本病発生ほ場の生産物は、脱穀の際に罹病子実が砕けるため病原菌が麦粒表面に付着し、これが汚染種子となって翌年の発病につながる。したがって、対策として最も重要なことは、健全種子の生産と使用である。また、病原菌がすき込まれた発生ほ場では土壌伝染も生じることから、連作を避け長期輪作を励行する。また、は種時の土壌湿度が高く、地温15℃以下が本病の感染好適条件で、遅まきするほど発生する危険性が高くなることから、地域ごとのは種適期を守ることが重要である。

 




写真 なまぐさ黒穂病が多発したほ場(円内は発病により丈が短くなった穂(中央農試 田中 原図)




写真 なまぐさ黒穂病に罹病した穂(中央農試 田中 原図)



(3)春まき小麦のムギキモグリバエ


 ムギキモグリバエは、幼虫が麦類の茎内部へ侵入し、食害する。そのため、生育初期に加害された場合には、幼虫の侵入部位から上部の茎葉が枯死して無効分げつが増加する。また、出穂前に加害された場合には、出穂不能となったり、出穂しても傷穂あるいは白穂となる症状が現れる。特に、春まき小麦は本種による被害を受けやすく、多発した場合、収量が半減する事例も認められる。平成25年は、上川地方を中心に被害が目立ち、被害面積率は春まき栽培で2.0%、初冬まき栽培で5.9%に達した。

 本種は年2〜3回発生し、秋季には成虫が秋まき小麦等へ移動し、幼虫態で越冬する。通常は2回目成虫の発生が多い。しかし、平成24年は10月上旬までかなりの高温が続いたため、3回目成虫の発生が多く、越冬幼虫の密度増加につながったと推測される。さらに、平成25年は春季の天候不順により、春まき小麦のは種期が遅れたことから生育も遅れ、被害を受けやすくなっていたと考えられる。

 防除対策として、春まき小麦の春まき栽培は早期は種に努め、5月下旬以降、6葉期頃まで茎葉散布を実施する。春まき小麦の初冬まき栽培においても、平成25年に被害が多かった地域では5月下旬以降の防除を検討する。なお、秋まき小麦の極端な早まきは、越冬幼虫の密度を高めるので避ける。



写真 ムギキモグリバエによる白穂(中央農試 小野寺 原図)





写真 ムギキモグリバエ幼虫により穂の基部に発生したらせん状の食痕(中央農試 小松 原図)




写真 茎の内部を食害するムギキモグリバエの幼虫(中央農試 小野寺 原図)



写真 ムギキモグリバエの成虫(中央農試 小野寺 原図)


(4)たまねぎおよびねぎのネギハモグリバエ


 平成25年、空知、石狩、上川地方のたまねぎおよび上川、オホーツク地方のねぎで、ネギハモグリバエの被害が多発した。本種はたまねぎやねぎ、にらなどネギ属のみを加害する狭食性の害虫で、北海道を含む全国に分布するが、道内での発生量は少なく従来は大きな被害になることはなかった。道内での詳しい発生生態は不明な点が多いが、年間2〜3世代程度と考えられ、蛹で越冬する。成虫は葉に縦に数個並んだ白い点状の食痕を残し、その一部に産卵をする。卵は3〜8日程度でふ化し、幼虫は白い線状の食跡をつけ、内側から葉を食害する。老熟幼虫は葉に穴を空け脱出し、表面付近の土中で蛹化する。

 特に大きな被害となった空知地方のたまねぎでは、6月に第1回幼虫の発生が確認されており、第1回成虫は5月下旬から6月上旬にかけて発生していたと推測される。第2回の発生は7月中旬頃から始まり、倒伏後も加害が続いた。葉身への加害が激しかったほ場では、鱗片に幼虫が侵入して収穫物の品質が低下する被害も生じた。

 発生量が多くなる夏季の第2回以降の発生で特に被害が大きくなりやすく、高温期は生育も非常に早いため急激に被害が進展する(25℃で卵期間3日、幼虫期間8日)。本種は多くの薬剤に対し感受性が低いことが知られており、さらに、幼虫は葉に潜って内側から加害するため薬剤による防除効果が得られにくい。したがって、薬剤防除にあたっては、ほ場をよく観察し、葉に白い線状の幼虫食痕が増加する前に、縦に並んだ白い点状の成虫食痕が目立つようになったら、早めの防除を心がける。平成25年に発生の多かった地域では、例年に比べ越冬蛹の密度が高いと考えられるので特に注意する。




写真 ネギハモグリバエの幼虫によるたまねぎの食害(中央農試 武澤 原図)




写真 ネギハモグリバエの成虫とたまねぎの葉に発生した成虫の食痕(中央農試 武澤 原図)




写真 ネギハモグリバエの幼虫によるたまねぎの鱗片の食害(中央農試 武澤 原図)



(5)各種作物のヨトウガ


 てんさいにおけるヨトウガの発生量は、平成23年および24年は平年よりやや少なかった。しかし、平成25年は第1回および第2回ともに発生量が平年よりやや多く、上川、十勝およびオホーツク地方を中心に被害が目立った。

 平成25年の発生に特徴的であったのは、本種の多発がてんさいのみならず、通常は被害となりにくい作物でも目立ったことである。例をあげると、上川および宗谷地方のデントコーンほ場では、7月に幼虫が多発して茎葉や支根を激しく食害し、一部の株が倒伏した。また、上川地方のそばほ場で、幼虫が8月下旬に多発し、葉および花を食いつくし、その後、周辺のほ場へ移動、侵入し、かぼちゃの果皮およびスイートコーンの雌穂を食害した。いずれの事例とも、被害に気づいたのは幼虫が老齢に達してからであり、後者では、殺虫剤散布を実施したものの十分な効果が得られなかった。これらの地域以外にも、にんじん、スイートコーンおよびデントコーンで同様の被害が認められた。

 このように、本種は主要な加害作物でなくとも、幼虫が多発し、大きな被害を受けることがあるため、通常はヨトウガを対象とした防除を実施しない畑作物および野菜類においても、定期的にほ場観察を行い、発生を早期に把握する必要がある。幼虫に対する殺虫剤の防除効果は若齢幼虫で高く、成育するに従って低下するので、防除適期を逸しないよう注意する必要がある。



写真 ヨトウガの幼虫により食害されたそば(上川農試 青木 原図)





写真 ヨトウガの幼虫により食害されたとうもろこし(上川農試 青木 原図)




写真 ヨトウガの成虫(中央農試 小野寺 原図)



過年度の特に注意を要する病害虫


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