北海道病害虫防除所 |
令和3年に特に注意を要する病害虫 |
水稲のヒメトビウンカ
とうもろこしのツマジロクサヨトウ
野菜類のネギアザミウマ
うり科野菜の土壌伝染性病害
りんごの腐らん病
水稲のヒメトビウンカは、イネ縞葉枯病を媒介する重要害虫である。令和2年のヒメトビウンカ発生量は平年並であったが、予察田における畦畔すくい取り調査では、8月以降の成虫密度および10月の幼虫密度が平年より高かった。また、本年実施した病害虫発生現況調査においても、近年多発傾向が続いている上川地方および渡島地方の一部でヒメトビウンカの発生が目立つ地域があり、このなかには縞葉枯病発生地域も含まれた。このような状況から、本年8月以降にヒメトビウンカの発生が多かった地域や縞葉枯病発生地域では秋季の密度が高く、越冬幼虫が多い可能性があるため、発生状況に注意する必要がある。
縞葉枯病発生地域では、育苗箱施用時にヒメトビウンカに有効な薬剤を選択することが重要である。近年使用の増えているジアミド系剤は、イネドロオイムシに効果が高い一方、ウンカ類への効果が期待できない薬剤もあるので注意が必要である。さらに、本年8月以降に本種の密度が上昇した地域では、本田防除に用いる茎葉散布剤に、アカヒゲホソミドリカスミカメとヒメトビウンカ両方に効果の高い薬剤を選択する。薬剤散布後はすくい取りなどをおこない防除効果を確認する。薬剤防除に際しては、抵抗性発達を防止するため系統の異なる薬剤によるローテーション防除に努める。道外ではイミダクロプリド剤およびフィプロニル剤に抵抗性を持つヒメトビウンカ個体群が確認されている。道内でこれらの薬剤に対する抵抗性または感受性低下は確認されていないが、育苗箱施用および茎葉散布において防除効果が十分に得られなかった場合には、次年度は他の薬剤に変更することを検討する。
写真 縞葉枯病 (上川農試 長濱 原図)
写真 ヒメトビウンカの成虫 (中央農試 岩ア 原図)
ツマジロクサヨトウは、大きさは成虫で翅を広げた幅が3.5〜4cm程度、幼虫で最大4cm程度の中型のヤガである。原産地域の南北アメリカ大陸では広食性害虫とされているが、国内での被害作物はスイートコーンまたは飼料用とうもろこしがほとんどである。北海道では、令和2年8月にフェロモントラップで初めて成虫の誘殺が確認され、その後、スイートコーンおよび飼料用とうもろこしにおいて幼虫による食害が確認された(詳細「新たに発生した病害虫」参照)。
本種は低温に弱く、道内では越冬不可能と考えられるが、南西諸島や台湾、中国南部などでの越冬が想定される。成虫は移動能力が高く、気流に乗って一晩で1,000km以上の長距離飛翔を行うことがある。そのため、次年度以降も北海道への飛来が想定される。飛来後も自力飛翔により数100kmを移動することで発生地域を広げることが可能である。雄穂抽出前の早期に飛来した場合、新葉抽出部に潜入して大きな被害となる危険性が考えられるので注意が必要である。
成虫飛来については、病害虫発生予察情報や病害虫防除所のホームページで情報の公開を予定している。飛来確認後は「新たに発生した病害虫」に記載されている被害様相や、幼虫頭部の淡色の逆Y字模様や腹部末端付近の4つの大きな黒点などの特徴を参考に、ほ場を観察して早期発見に努める。本種の被害が疑われる場合は農業改良普及センターや農業試験場、病害虫防除所に連絡する。新葉抽出部や雌穂に食入すると薬剤の防除効果が得にくくなると考えられるため、早めに薬剤防除を実施する。
写真 ツマジロクサヨトウの幼虫(中央農試 武澤 原図)
写真 ツマジロクサヨトウの被害株(中央農試 武澤 原図)
ネギアザミウマはたまねぎやねぎの重要害虫であり、近年ピレスロイド剤抵抗性系統が道内の広い範囲に分布を拡大した一方で、本種に有効な他系統新規薬剤の登録が進み、これら作物では系統の異なる薬剤によるローテーション防除が可能となっている。本種は高温少雨条件で多発しやすく、令和2年は夏季高温に経過したため、少雨に経過した空知・石狩・十勝地方でたまねぎでの発生が多くなった。さらに、たまねぎとねぎの両方の栽培が多い地域では、ねぎでの被害が例年になく多くなった。たまねぎで多発した地域では8〜9月どりの作型のキャベツにおいて結球部被害が多発して、ほぼ全量が廃棄となるほどのほ場も認められた。
本種に対する薬剤防除においては、防除開始時期を逸しないこと、効果の高い薬剤を使用すること、防除間隔が開かないようにすることが重要である。ねぎでは7〜10日間隔で防除が実施されているが、特にほ場外からの飛び込みが多くなる7月下旬から8月下旬頃においては、7日間隔で効果が高いスピネトラム剤、プロチオホス剤、フロメトキン剤、シアントラニリプロール剤、フルキサメタミド剤を使用する。結球部被害が問題となる8〜9月どりのキャベツにおいては、ネギアザミウマに有効な薬剤で切れ間なく防除を継続する必要がある。定植前に必ず効果の高いクロラントラニリプロール・チアメトキサム剤の灌注処理を実施して、定植3週後からは他害虫を含めた防除対策として、ねぎで挙げた上記薬剤やフィプロニル剤などの中からネギアザミウマに効果が高く、他の害虫にも効果の期待できるを薬剤を選択して7日間隔の防除を収穫期まで実施する。
写真 たまねぎのネギアザミウマによる被害 左:被害株、右:健全株 (中央農試 武澤 原図)
写真 ネギアザミウマによるキャベツの結球部被害(中央農試 武澤原図)
令和2年、道内においてはじめてホモプシス根腐病の発生がメロンおよびきゅうりで確認された。また、平成21年に上川地方で発生が確認されたメロン黒点根腐病の発生地域が拡大していることが明らかとなった。両病害ともにうり科野菜全般に発生する病害であり、根が褐変・腐敗することにより地上部が徐々に萎れ、着果負担がかかる頃や収穫が本格化する頃になると急激に株全体が萎れることが特徴である。そのため、発生していても灌水不足や生理障害などと誤解され、被害が拡大している場合が多く見られている。
既発生ほ場における対策として、両病に対する抵抗性台木はないため、つる割病やえそ斑点病対策としての接ぎ木による被害抑制は望めない。一方、薬剤による土壌消毒は有効である。ただし、土壌還元消毒はホモプシス根腐病に対して効果が得られるが、黒点根腐病では効果が得られない。
両病害ともに発生ほ場周辺に汚染が潜在的に広がっている場合が多いので、発生ほ場周辺のうり科野菜栽培ほ場では、萎れなどの症状が見られない場合であっても、栽培終了後に毛細根が脱落しないように根を丁寧に掘りとり、ホモプシス根腐病による黒色構造(偽子座、偽微小菌核)または黒点根腐病による子のう殻の有無を確認し、両病害の汚染がないことを確認し次作に備える必要がある。
写真 ホモプシス根腐病によるメロンの被害株(中央農試 小松 原図)
写真 ホモプシス根腐病の細根の症状 (中央農試 小澤 原図)
写真 メロンの細根に形成した黒点根腐病の黒点(子のう殻)(中央農試 小松 原図)
腐らん病は、りんごの最重要病害であり、主幹、主枝および枝梢部に発生して胴枯れ、枝枯れ症状を引き起こす。冬期間を除くほぼ通年、樹皮に形成された子のう殻や分生子殻(柄子殻)から胞子が分散する。このため、りんご栽培期間全体にわたって本病に対する警戒が必要である。
本病はこれまでも多くの園地で発生がみられ、平成29年から令和元年の3年間にわたり特に注意を要する病害虫として注意喚起を行ったが、令和2年も発生面積率84.4%、被害面積率22.2%と依然として多発傾向が続いている。この原因として、近年の多発傾向により伝染源密度が高まっていること、台風等の風害による傷が病原菌の侵入口となったこと、なり疲れや樹齢の高まりによる樹勢低下により、樹体が被害を受けやすくなっていることが考えられる。
本病は薬剤散布のみで抑えることが難しいため、園地内から伝染源を除去することが重要である。本病の病斑からは一年を通して胞子が飛散されることから、園地の観察に努め、本病の発生をできる限り早期に発見し、速やかにり病枝の切り落としや病患部の削り取りを行う。切り取った枝や削り取った樹皮も伝染源となるため、園内に放置しない。削り取ったり切り落としてできた傷口には薬剤を含むゆ合剤を塗布する。剪定、摘果などによる傷も感染口となるので、剪定後の切り口にゆ合剤を塗布するとともに薬剤の樹冠散布も行い、本病に感染しないよう管理する。加えて、収穫後の休眠期防除も実施する。
また、本病の対策としては樹勢の維持も重要であるため、「りんご腐らん病総合防除対策指針」(「北海道 農作物病害虫・雑草防除ガイド」参照)に基づき、適切な剪定、施肥、土壌管理、干害防止のための草生管理、適正な着果量の確保など、基本管理を徹底する。
写真 りんごの腐らん病 胴ふらん(中央農試 岩ア 原図)
写真 りんごの腐らん病 枝ふらん(中央農試 西脇 原図)
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