北海道病害虫防除所
北海道立総合研究機構

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令和2年に特に注意を要する病害虫

秋まき小麦の赤さび病
秋まき小麦の土壌病害
野菜類のネギアザミウマ
りんごの黒星病
りんごの腐らん病


(1)秋まき小麦の赤さび病

 
 赤さび病は高温多照の気象条件で多発しやすく、このような気象条件となった令和元年度は空知、上川地方をはじめ、全道で発生が目立った。道内で作付けされている秋まき小麦の主力品種「きたほなみ」の本病に対する抵抗性は
やや強であるが、近年本品種においても発生が目立つようになっており、抵抗性品種に準じた防除が必要である。
 本病に対する抵抗性が
相当と考えられた「ホクシン」で実施された試験では、特に上位2葉の病斑面積率と収量の間に高い相関が認められており、開花始における止葉の病葉率25%、乳熟期の止葉の被害面積率5%が本病に対する被害許容水準である。被害許容水準以下にするためには、止葉抽出から穂ばらみ期に1回、開花始に1回(赤かび病との同時防除が可能)の薬剤散布が必要である。上位葉で発病が認められてからの防除では十分な効果が得られないため、発病が懸念されるほ場においては、前述の時期に防除を開始する。また、「ゆめちから」においては、これまでに減収するような発病は確認されておらず、直ちに本病に対する防除を検討するような状況ではないが、過去に巡回調査ほ場や試験ほ場等において上位葉の発病が認められた事例もあるため、ほ場観察に努める。

(2)秋まき小麦の土壌病害

令和元年度は前年秋季の天候が温暖であったため、道東地方で縞萎縮病の発生が目立った。道央や道東地域では立枯病の被害を受けたことにより早期に枯れ上がるほ場が散見された。また、近年北海道内で問題となっているなまぐさ黒穂病においても、病原菌が明らかになり、伝染経路として土壌伝染が主体であることが明らかになっている。これらはいずれも土壌病害であり、連作により顕在化し、被害が深刻化する。土壌中の病原体を根絶することは難しいため、耕種的な対策を総合的に実施することが重要である。

 これらの土壌病害に対しては、抵抗性品種の導入や適期は種などの耕種的防除法が個別に示されているものもあるが、被害を軽減し、安定栽培を継続していくためには、土壌病害に共通する基本的な対策として、連作や短期輪作を避けることが重要である。


(3)野菜類のネギアザミウマ

ネギアザミウマはたまねぎ、ねぎなど野菜類の重要害虫であり、高温少雨条件で多発しやすい。近年、ピレスロイド剤抵抗性系統が道内の広い範囲に分布を拡大した一方で、本種に有効な他系統新規薬剤の登録が進み、たまねぎおよびねぎでは系統の異なる薬剤によるローテーション防除が可能となった。

本年は、5月に記録的な高温となり、長沼町および訓子府町のたまねぎ予察ほ場では、成虫初発が平年より早い5月下旬に認められ、飛び込み量も多かったため6月上旬にはほぼすべての株に寄生および被害が確認された。67月も高温少雨に経過し、たまねぎの栽培期間を通じて加害・増殖に好適な条件が続いたため、一般ほにおいても、過去に例を見ない多発生となった。また、キャベツでも8月に結球部被害が発生し、廃耕になったほ場もあった。

本種に対する薬剤防除においては、防除開始適期を逸しないこと、効果の高い薬剤を使用すること、適切な間隔で防除することが重要である。近年、5月が高温で経過することも多く、たまねぎの防除開始適期が本年のように早まることを想定する必要がある。薬剤散布にあたっては、たまねぎでは、効果の高い薬剤を用いて、10日間隔でローテーション散布をおこなう。次回の薬剤防除予定日に降雨が予想される場合などは、予定を早めて防除間隔が開きすぎないようにする。キャベツでは、78月に定植する作型ではほ場への飛び込み時期を予想することは困難であるため、栽培期間を通じて効果の高い薬剤による防除が必要である。本種に対して有効な薬剤による苗灌注処理を必ずおこない、定植21日後からは7日間隔でフィプロニル水和剤F、スピネトラム水和剤F、トルフェンピラド乳剤等の有効な薬剤によるローテーション散布をおこなう。

(4)りんごの黒星病

 黒星病はりんごにおける重要病害であり、葉だけでなく、果実にも病斑を形成するため、発生すると減収する。令和元年度は平成30年度に比べて被害面積率が低下したが、依然として発生面積率が高く、翌年の伝染源が多いと推測される。

本病は平均気温が1520℃で、多雨となったときに多発しやすい。本年は春季の降雨が少なく、夏季までは平成30年度よりも少ない発生量で推移したが、8月には並温多雨となり、本病の発生に好適な条件であったため、発生量が増加した。

本病の病原菌はり病した落葉、果実や枝にできた病斑上で越冬し、そこから飛散される子のう胞子が一次伝染源となる。本病は発生量が増加してからの防除では防ぐことが難しいため、初期の防除時期を逸しないように薬剤を散布する。加えて、5月中旬から6月上旬の重点防除時期はもちろんのこと、それ以降も降雨前に防除を実施し、散布間隔が開きすぎないように注意する。特に枝や葉が混み合う時期には十分な散布水量で、散布ムラを生じさせないように薬剤を散布する。

また、苗木での発生事例もあるため、新規に苗を導入した際には、その後の発病状況をよく観察するとともに、苗木であっても成木と同様に防除を実施する。

平成30年度には、道内の一部地域で、本病に対する防除薬剤として基幹的に用いられてきたQoI剤やDMI剤に対する耐性菌や感受性低下菌の発生が確認されたことから、薬剤の選択においては特に注意する。チオファネートメチルは全道で耐性菌が発生しているため、本病を対象とした防除には使用しない。QoI剤耐性菌の発生が確認されている地域では、本病を対象とした防除には本系統薬剤を使用しない。DMI剤感受性低下菌の発生が確認されている地域では、本病を対象とした防除に本系統薬剤の使用を極力避けるとともに、使用する際にも混合剤を使用するなど、感受性低下の発達を抑えることに留意する。QoI剤耐性菌およびDMI剤感受性低下菌の発生に関しては、平成30年度病害虫発生予察情報(特殊報第2号)を参照する。

   

 



写真 りんごの黒星病 葉の症状(中央農試 山名 原図)

写真 りんごの黒星病 果実の症状(中央農試 山名 原図)

 

(5)りんごの腐らん病
 

    腐らん病は、りんごの最重要病害であり、主幹、主枝および枝梢部に発生して胴枯れ、枝枯れ症状を引き起こす。冬期間を除くほぼ通年、樹皮に形成された子のう殻や分生子殻(柄子殻)から胞子が分散する。このため、りんご栽培期間全体にわたって本病に対する警戒が必要である。
 本病はこれまでも多くの園地で発生がみられ、平成30年度に特に注意を要する病害虫、また、4月11日には注意報を発表して注意喚起を行ったが、本年も発生面積率83.0%、被害面積率28.1%と多発した。この原因として、近年の多発傾向により伝染源密度が高まっていること、過年度の凍害による樹体損傷やなり疲れ、樹齢の高まりによる樹勢低下により、樹体が被害を受けやすくなっていることが考えられる。また、本年は7月に台風7号から変わった低気圧、9月の台風21号が北海道周辺を通過しており、強風により損傷を受けた樹もあると推察される。これらのことから、平成31年度においても本病に対して特に注意する必要がある。
 本病の対策としては樹勢の維持が最も重要であるため、「りんご腐らん病総合防除対策指針」に基づき、適切な剪定、施肥、土壌管理、干害防止のための草生管理、適正な着果量の確保など、基本管理を徹底する。また、本病の病斑からは一年を通して胞子が飛散されることから、り病部を放置すると発生リスクが高まる。そのため、本病の発生を早期に発見できるよう園地の観察に努め、見つけ次第速やかにり病枝を切り落とし、病患部の削り取りを行う。切り取った枝や削り取った樹皮も園内に放置すると感染源となるため、必ず園外に持ち出して適正に処分する。傷口にはゆ合剤を塗布することも重要である。剪定、摘果などによる傷も感染口となるので、剪定後の切り口にゆ合剤を塗布するとともに薬剤の樹幹散布も行い、本病に感染しないよう管理する。また、収穫後の休眠期防除も実施する。

   


写真 りんごの腐らん病 胴ふらん(中央農試 岩ア 原図)


写真 りんごの腐らん病 枝ふらん(中央農試 西脇 原図)





過年度の特に注意を要する病害虫


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