北海道病害虫防除所
北海道立総合研究機構

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平成30年に特に注意を要する病害虫

てんさいの褐斑病

あぶらな科野菜のコナガ
りんごの黒星病
りんごの腐らん病


(1)てんさいの褐斑病

   てんさいの褐斑病においては、既にQoI剤に対する耐性菌が報告されているが、平成29年に新たにDMI剤(ジフェノコナゾール乳剤、フェンブコナゾール乳剤、テトラコナゾール乳剤、テブコナゾール水和剤F)に対する耐性菌の出現と、ヘキソピラノシル系抗生物質(カスガマイシン剤)に対する耐性菌の発生が拡大している事が報告された。これらの耐性菌は全道に広く分布していると考えられ、本病に対する防除では特に注意する必要がある。
 薬剤散布を行う際には、DMI剤およびカスガマイシン剤(いずれも混合剤を含む)の使用回数を可能な限り低減するため、マンゼブ剤や銅剤を基幹薬剤とする。また、薬剤の散布にあたっては、地区の平年初発期や予察情報を参考に、初発直後までに散布を開始する。薬剤の散布間隔は14日以下とし、特に本病の感染に好適な高温条件や多湿条件となる場合には10日以下とする。8月下旬で薬剤散布を終了すると、その後の発病が急激に進展する場合が多いため注意する。
また、本病の発生を抑えるためには、薬剤散布によらない耕種的防除も積極的に取り入れることも重要である。具体的には、伝染源を高めないために連作を回避することや、本病に対する抵抗性が“強”の品種を作付けすることが対策となる。




写真 てんさいの褐斑病の病斑(中央農試 山名 原図)



写真 てんさいの褐斑病多発ほ場(中央農試 山名 原図)


(2)あぶらな科野菜のコナガ

 あぶらな科野菜のコナガは、道内において平成26年にジアミド系薬剤に対する抵抗性遺伝子を保持した個体が確認され、平成28年には生産現場においても春季から夏季にかけて抵抗性遺伝子の保持割合の上昇が確認された。これらの結果を受けて、平成27、28年にジアミド系剤を含むコナガ防除剤の使用に係る注意を喚起してきたところである。
北海道内におけるキャベツのコナガに対する平均防除回数は、平成14年から20年まではほぼ一貫して増加傾向にあったが、ジアミド系剤が初めて上市されて以降の平成21年から24年にかけては減少し、これにはジアミド系剤による高い防除効果が貢献したものと思われる。一方、道内でジアミド系剤抵抗性遺伝子を保持したコナガが確認された平成26年以降、防除回数は4年連続で増加し、平成24、25年の4.5回から平成29年には6.2回に達している。この間の防除回数の増加には、卓効を示していたジアミド系剤の防除効果の低下が影響しているものと考えられる。平成29年にも、道内の一部生産現場から、コナガに対するジアミド系剤の効果が低く防除に苦慮しているとの情報が寄せられている。また、試験機関が実施した防除試験においても、ジアミド系剤の防除効果が従来程高くはないことが確認されている。
以上のように、ジアミド系剤の効果が低下していることは明らかであることから、従来からの注意事項である、@ジアミド系剤を含め、同一系統薬剤の連用を避ける、A防除実施後の効果の確認に努め、防除効果が低いと判断された場合は、他系統の薬剤による追加防除の実施を検討する、B灌注剤、茎葉散布剤としての使用時に、所定の希釈倍数・処理量を遵守することが大切である。

 

写真 コナガの幼虫(中央農試 岩ア 原図)

 

写真 コナガの成虫 (中央農試 岩ア 原図)

 

  

 

(3)りんごの黒星病

  黒星病はりんごにおける重要病害であり、葉だけでなく、果実にも病斑を形成するため、発生すると著しい収量減の要因となる。そのため、本病に対する防除は不可欠であり、特に開花直前から落花期の5月中旬から6月上旬は重点防除期とされ、定期的な薬剤散布が実施されている。また、重点防除期以降も天候によっては果実での発病や翌春の伝染源の増加の恐れがあるため、必要に応じて追加散布が実施されており、近年一般園における本病の発生は見られていなかった。しかし、平成27年には重点防除期以降の薬剤散布間隔が開いた一部の園地において発生が認められた。平成28年には被害に至る園地も認められ、平成29年も引き続き被害が発生している。
本病は平均気温が15〜20℃で、多雨となったときに多発しやすい。平成29年は6月に記録的な多雨があったことで、本病の発生に好適な条件となった。発生量が増加すると、当年の被害にとどまらず、枝や葉に形成された病斑で病原菌が越冬し、翌春の感染源となる。平成30年においても春の感染源は多いと推測されるため、初期の防除時期を逸しないように薬剤を散布する。加えて、近年夏季の多雨傾向が続いていることから、重点期の防除はもちろん、それ以降も間隔が開きすぎないように薬剤散布を実施する。散布間隔や回数が適切に行われている園地においても、防除機の切り返し地点など、薬剤の散布ムラにより防除が不十分な場所で発生した事例があることから、薬剤散布においては適切な水量を遵守し、ムラを生じさせないように注意する。
また、青森県では、平成28年に本病に対する基幹防除薬剤であるDMI剤に対する耐性菌の出現が確認され、平成29年から本病に対する本系統剤の使用が全面的に禁止された。道内における本系統剤に対する感受性低下の事例は確認されていないものの、本系統も含め同一系統薬剤の連用は避ける。

   

 




写真 りんごの黒星病 葉の症状(中央農試 小松 原図)

写真 りんごの黒星病 果実の症状(後志農改 小坂 原図)

 

(4)りんごの腐らん病
 

    腐らん病は、りんごの最重要病害であり、主幹、主枝および枝梢部に発生して胴枯れ、枝枯れ症状を引き起こす。冬期間を除くほぼ通年、樹皮に形成された子のう殻や分生子殻(柄子殻)から胞子が分散する。このため、りんご栽培期間全体にわたって本病に対する警戒が必要である。
本病はこれまでも多くの園地で発生がみられ、平成28年は発生面積率60.1%、被害面積率25.9%と多発した。このことを受けて平成29年度に特に注意を要する病害虫として注意喚起を行ったが、平成29年には発生面積率75.1%(平年44.3%)、被害面積率30.4%(平年16.1%)とさらに発生量は増加した。これには、近年の多発傾向により伝染源密度が高まっていること、平成23年の凍害による樹体損傷、平成27年の多収によるなり疲れ、春先の急激な温度低下による凍害などの影響に加え、主要品種「つがる」が導入されてから年月が経ち、樹齢が高まっていることなど様々な影響が考えられるため、総合的な対策の実施が必要である。
本病の対策は「りんご腐らん病総合防除対策指針」に基づく、適切な剪定、施肥、土壌管理、干害防止のための草生管理、適正な着果量の確保など、基本管理の徹底が最も重要である。また、本病の病斑からは一年を通して胞子が分散されることから、り病部を放置することでより発生のリスクが高まる。そのため、本病の発生を早期に発見できるよう園地の観察に努め、見つけ次第速やかにり病枝の切り落とし、病患部の削り取りを行う。切り取った枝や削り取った樹皮も園内に放置すると感染源となるため、必ず園外に持ち出して適正に処分する。傷口にはゆ合剤を塗布することも重要である。せん定、摘果などによる傷も感染口となるので、せん定後の切り口にゆ合剤を塗布するとともに薬剤の枝幹散布も行い、本病に感染しないよう管理する。また、収穫後の休眠期防除も実施する。

   




写真 りんごの腐らん病 胴ふらん(後志農改 小坂 原図)




写真 樹皮に形成された柄子殻(後志農改 小坂 原図)





過年度の特に注意を要する病害虫


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