北海道病害虫防除所 北海道立総合研究機構 |
平成25年度に特に注意を要する病害虫 |
水稲の種子伝染性病害のうち、北海道で問題となる病害は、いもち病、ばか苗病、褐条病および苗立枯細菌病である。いずれも保菌もみを種子として用いると育苗期間に発病し、いもち病やばか苗病では本田における感染源にもなり、ときに大きな被害につながる。
平成22、23年はオホーツク地方においてばか苗病が多発し、平成24年は、ばか苗病の発生が道内各地で認められ、現況調査によると、空知、胆振、檜山および上川地方で中発生以上の事例が目立ち、道内全体の被害面積率は0.2%(平年0.0%)であった。また、平成23年には褐条病の発生が散見され、平成22年にはいもち病が本田で極早期に初発したため、保菌苗の持ち込みが疑われた。このように近年、種子伝染性病害の発生が目立つことから注意が必要である。
種子伝染性病害防除の基本は、健全種子の使用と種子消毒である。特に自家採種した種子は病原菌を保菌しているリスクが高いことから、採種ほ産の種子を使用する。次に、種子消毒には、化学農薬による消毒法と化学農薬に頼らない消毒法が普及しているが、十分な効果を得るためには、それぞれの注意事項を遵守することが重要である。化学農薬に頼らない種子消毒法には、生物農薬、温湯および食酢による消毒方法があるが、これらの単独処理は、上記4病害のうちいずれかに対して十分な効果が得られない場合がある。化学農薬と同等の防除効果を得るためには、各消毒法を組み合わせて実施する必要がある(平成22年普及推進事項)。さらに、これらは処理方法を誤ると防除効果が不安定となりやすく、@浸種前に使用する生物農薬では適切な薬液温度を守る、A温湯消毒では種籾の温度が所定の時間確保されるよう、温湯消毒機の能力以上の量を一度に処理しない、B温湯消毒後は速やかに冷却し、濡れたたままで保管せず、直ちに浸種を行う、など基本技術を励行する。
写真 苗床で発生した葉いもち(中央農試 小松 原図)
写真 ばか苗病の多発ほ場(中央農試 小松 原図)
写真 苗に発生した褐条病(中央農試 小倉 原図)
写真 苗床に発生した苗立枯細菌病(北見農試 白井 原図)
平成24年10月中旬、道南地方のほ場で生産された小豆の子実に、アズキゾウムシの成虫が混入する被害が認められた。さらに、その生産物を検査したところ、表面に円形の成虫脱出口が認められる被害子実が混入していた。このことから、収穫直後に認められた成虫は、立毛中に成熟した莢に産卵された卵から成育し、羽化したものと推測された。同様の被害は、道南地方の複数の市町村で認められた。また、平成23年9月上旬、道央地方のほ場で、小豆の成熟莢の表面に本種の卵殻が付着していた。この莢を持ち帰り、室温で保管したところ、約1ヶ月後に本種の成虫が羽化したことから、本種がほ場内で産卵活動をしていたことが確認された。
本種は従来から北海道内での発生を認めていたが、道内の寒冷な屋外では越冬出来ないとされており、発生源は周年貯蔵されている被害子実や秋期に屋外で産卵・加害された小豆の屋内への持ち込みが考えられている。平成24年の収穫時に被害が顕在化した原因は、立毛中の莢に対して産卵が行われていた可能性が高く、成熟莢が現れた8月下旬から9月下旬までの約1ヶ月間、気温が平年よりかなり高く経過したことから、子実内における幼虫の発育が早まったためと考えられる。
本種による被害は、菜豆のインゲンマメゾウムシ同様、被害子実が収穫から調製までの間に確認されなくとも、製品の出荷後に成虫が羽化し、時間の経過とともに被害が拡大する傾向がある。このように、製品から成虫や被害粒が発生した場合には返品や信用低下による損害が極めて大きい。
したがって、生産者および集出荷のそれぞれの段階で被害発生の危険性を認識し、できる限りの対策を実施することが必要である。生産者が実施できる対策は、以下のようなことがあげられる。@収穫した子実は速やかに出荷し、必要以上に長期間の保管をしない。Aやむを得ず子実を長期間にわたり保管する場合は、低温条件下に置くよう心がける。B貯蔵中に被害が見られた子実および成虫は、放置せず、土中に埋没させるなど、本種を分散させないよう適切な方法で処分する。C播種後に余った種子は、速やかに処分する。子実を一時的に保管した場所の清掃を徹底し、餌となる子実が一年を通して残らないようにする。
写真 アズキゾウムシによる被害子実(中央農試 小野寺 原図)
写真 アズキゾウムシ成虫(中央農試 小野寺 原図)
広食性害虫であるオオタバコガは多くの作物を加害することが知られており、幼虫は葉や花弁を食害するだけでなく花蕾、果実、葉菜類の結球部など植物体内に食入する。平成6年頃から西日本を中心に被害が多発しているが、各種薬剤に対する感受性が低く、防除が難しい害虫である。成虫は長距離移動することが知られており、北海道における発生は、道外からの長距離飛来によるものと考えられる。ここ数年、道内でも道南および道央地方を中心に、さやえんどう、とうもろこし、トマト、レタスなどの野菜類および花き類などで被害が発生している。
平成24年、道南および道央地方の計17地点で本種のフェロモントラップ調査を行ったところ、7月中旬頃に広い範囲でフェロモントラップへ成虫が誘殺され、7月下旬頃から幼虫による被害が認められた。しかし、7月中の誘殺を確認できた地点は、17地点中7地点と半数に満たず、誘殺数も地点間差が大きく、誘殺が認められなかった地点もあり、特に山間部では誘殺が少ない傾向が認められた。さらに、誘殺の有無と被害の発生が一致しない事例もみられたことから、フェロモントラップ調査は広範囲で行い、1地点でも誘殺が認められた場合は他の地域でも発生に注意する必要がある。今後、フェロモントラップ調査の精度を高めるため、設置範囲や設置場所などについて事例を増やしながら検討をすすめる。
本種の幼虫は植物体に食入するため、被害確認後の薬剤散布では防除効果が得られにくい。したがって、孵化幼虫を対象として薬剤散布を実施する必要がある。卵期間は20℃で5日程度、25℃で3日程度のため、病害虫防除所等からの情報を参考にし、飛来が確認された場合すみやかに本種に対して効果の高い薬剤を散布し、防除適期を逸しないように注意する必要がある。
写真 サヤエンドウ莢を食害するオオタバコガ幼虫(檜山農業改良普及センター 坂本氏 原図)
写真 オオタバコガ成虫(中央農試 小野寺 原図)
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