北海道病害虫防除所
北海道立総合研究機構
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平成23年度に特に注意を要する病害虫

(1)水稲のいもち病

 平成22年はいもち病が道内各地で発生し、平成20年以降3年連続の多発生となった。現況調査結果によるとその発生面積率は、葉いもちが40.9%(平年10.2%)、穂いもちが45.2%(平年8.2%)であり、それぞれ過去30年で最も高い発生面積率であった。

 平成22年の発生の特徴は、葉いもちの初発期が例年より早まったことである。特に、6月末から7月初旬に初発した事例が各地で認められた。葉いもちの初発期が早まる原因のひとつとして、苗床で感染した保菌苗の本田への持ち込みが挙げられるが、平成22年は前年の多発生によって種子や周辺環境での伝染源密度が高く、苗床感染が例年になく多かったと推測される。更に、葉いもちの感染好適日が6月下旬から断続的に例年より多く出現したことも初発期が早まった原因と考えられる。一方、7月は雨の日が多かったため、散布開始の適期を逃し、穂いもちの多発生に至った例が多かった。

 上述したように、平成22年は穂いもちの発生面積率が非常に高かったことから、感染籾の割合も例年より高いと考えられる。このため自家採種種子は使用せず、指導されている方法による種子消毒を徹底することに加え、育苗ハウス内やその周辺にわらやもみ殻を放置せず、育苗ハウス内でそれらを利用しないなど、苗床感染を防ぐための対策を徹底することが重要である。更に本田では、しろ掻き後に畦畔にあげた前年の残渣の処分を行い、放置された取り置き苗の処分を早期に実施する。移植後は、BLASTAM等の発生予察情報や関係機関からの営農技術対策情報を活用して葉いもちの早期発見に努め、発生を確認した時は早急に防除対策を行う。特に、育苗箱処理剤の効果を過信し、本田での葉いもちに対する対応が遅れた事例が見られたので留意する。

 なお、一部ほ場でジクロシメット剤(MBI-D剤)に対する耐性菌が確認された(「新たに発生を認めた病害虫」を参照)ことから、各地の農業改良普及センターの指導に従い、本系統の薬剤の使用を適切に行う必要がある。


水稲のいもち病

写真 いもち病の病斑 (中央農試 美濃氏 原図)


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(2)水稲のイネドロオイムシ

 水稲のイネドロオイムシは、過去に有機リン系やカーバメート系殺虫剤に抵抗性を発達させた事例があり、現在ではこれらとは異なるネオニコチノイド系やその他系統薬剤が本種を含む水稲初期害虫対象の育苗箱施用剤として広く使用されている。

 平成20〜21年に道内主要水稲栽培地帯において、育苗箱施用剤を処理したにもかかわらず本種による被害が多発する事例が認められた。そのため、平成22年3月に実施した聞き取り調査で防除効果不足を示唆する回答のあった地域(空知、石狩、後志、檜山、上川、留萌地方)でイネドロオイムシ越冬成虫を採集し、薬剤処理苗を用いた簡易検定試験を実施した。その結果、ネオニコチノイド系薬剤の1剤では、調査した25市町29地点のうち13市町13地点で補正死虫率は80%以上であったのに対し、15市町16地点では80%を下回り、このうち上川、空知、後志地方の7町7地点では50%以下であった。一方、その他系統の1剤では、調査した23市町27地点のうち、21市町25地点の補正死虫率は80%以上であったが、後志地方1町と上川地方1市で60%未満であった。このように、薬剤に対する感受性が地域間や同一市町内地点間で異なることが確認され、死虫率の低い地点では薬剤感受性の低下が疑われた。

 このことから、育苗箱施用にあたっては、前年度までの防除効果を参考に薬剤の選択に留意する。育苗箱施用をしても防除効果が低い場合は、本種の被害許容水準である被害葉率50〜70%を目安に茎葉散布による追加防除を検討すると共に、次年度以降の薬剤選択に留意する必要がある。また、育苗箱施用において登録の規定量を下回る薬量を施用することは、当年の効果不足につながると共に、薬剤感受性の低下を助長する恐れもあることから、規定の薬量施用を遵守する。  

水稲のイネドロオイムシ

写真 イネドロオイムシ幼虫による食害 (中央農試 小野寺氏 原図)


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(3)てんさいのシロオビノメイガ

 飛来性害虫のシロオビノメイガは、本道ではほうれんそうやてんさいを加害することが知られている。道南地域の一部のほうれんそうほ場では、しばしば発生が認められ、本種を対象とした防除も実施されているが、近年、てんさいほ場では大きな被害を認めることがなく、防除対象とされることもなかった。

 平成22年は、道内のてんさい栽培地域のほぼ全域において、本種によるてんさいの被害が多発した。特に道央および道南地域を中心に、8月中旬以降、急激に進んだ加害により、ほ場によっては葉柄を残して葉が食い尽くされるほどの甚大な被害に至った。また、ヨトウガを対象とした登録農薬による防除を実施していても、被害の拡大を止めることができない事例が相次いだ。なお、道南および道央地域のほうれんそうでも、7月中旬以降、本種の幼虫による食害が目立った。

 てんさいほ場では通常、本種の幼虫は8月以降に初発することが多いが、平成22年は道央地域で7月中旬に発生が確認され

8月上旬には成虫が多数認められたことから、前世代の成虫は7月上旬頃には飛来していたものと推察される。本種の発育は、17℃以下で停滞するとされている。同年は6月中旬以降、高温に経過し、特に7月上旬以降は日最低気温が半旬平均で17℃を上回った。このように早期から本種の発育に好適な温度条件が継続したため、面積の大きいてんさいほ場で急激な密度増加に至ったものと考えられる。

 薬剤検定の結果、本種の中〜老齢幼虫には有機リン剤、合成ピレスロイド剤など、ヨトウガ対象の主要剤による効果が低いことが確認された。このことも、防除実施にも関わらず本種の被害が拡大した原因と考えられる。一方、昆虫成長制御剤(IGR剤)を早期に散布したほ場では、本種による被害を回避できる事例があった。

 本種は飛来性害虫であるため、次年度以降の早期飛来の有無は不明である。しかし、平成22年のように7月頃からの早期発生や密度増加が認められる場合には、本種の発生を考慮してヨトウガの防除薬剤を選択することが望まれる。

てんさいのシロオビノメイガ

写真 シロオビノメイガ幼虫によるてんさいの食害 (中央農試 小野寺氏 原図)


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(4)菜豆のインゲンマメゾウムシ

 インゲンマメゾウムシは、菜豆(いんげんまめ、べにばないんげん)の乾燥子実に寄生する害虫で、幼虫が侵入した子実は、外観には症状が認められないが、内部で発育を完了した成虫が羽化・脱出する際に、直径2mm程度の円形の孔を表面に開ける。成虫は体長4mm程度、褐色の甲虫で、活発に歩行すると共に、高温時には飛翔する。

 平成3年の道内における発生確認以来、本種は一般家庭での保管子実に関わる害虫と位置づけられていたが、平成12年以降、道外に出荷された子実から成虫が羽化・脱出する被害の顕在化事例が継続して発生するようになった。被害の認められる地域は拡大する傾向にあり、平成22年には、集荷後の選別中もしくは出荷先で羽化成虫が見いだされる事例が例年と比較して高い頻度で生じている。収穫期に近い同年8〜9月の高温経過で、子実中の幼虫の発育が早まったことが、多発生や出荷前の被害顕在化の原因と推察される。インゲンマメゾウムシは、収穫・調整時には発生の兆候がなくても、出荷後、成虫の羽化による被害の顕在化と共に、袋などの内部での増殖により、時間の経過に伴い被害が拡大する傾向があり、混入時には返品などによる損害が小さくない。一方、初期の寄生率が低いことから、生産者段階や出荷時の被害に対する認識が高まりにくいことが問題点としてあげられる。

 海外での報告によると、インゲンマメゾウムシは納屋などの貯蔵条件下で越冬し、春以降に野外へ脱出した成虫のほ場での菜豆成熟莢への産卵により、寄生が開始するとされている。北海道内でも、ほ場での産卵を示唆する観察事例があることから、これまで被害を確認していなかったほ場でも、すでに発生していたり今後新たに発生する恐れがある。また、収穫後に倉庫などで寄生を受ける可能性もある。

 これらのことから、現時点で生産者が実施できる対策は、以下のようなことがあげられる。1.成熟期以降は早期に収穫を行い、ほ場での寄生リスクを軽減する。2.収穫した子実は速やかに出荷し、必要以上に長期間の保管をしない。3.やむを得ず子実を長期間に渡り保管する場合は、無加温で野外と同じような低温条件下に置くよう心がける。4.播種後に余った種子は、速やかかつ適正に処分する。子実を一時的に保管した場所の清掃を徹底し、餌となる子実が一年を通して残らないようにする。5.貯蔵中に害虫の発生が見られた子実は、野外に放置せず、土中に埋没させるなど成虫が分散しない方法で処分する。

菜豆のインゲンマメゾウムシ

写真 子実から脱出したインゲンマメゾウムシ成虫 (中央農試 小野寺氏 原図)


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(5)野菜類のネギアザミウマ


  ネギアザミウマは多くの作物を加害することが知られているものの、たまねぎやねぎなどのネギ属に属する作物以外では深刻な被害が生じることはまれであった。しかし近年、日本各地で、キャベツ、アスパラガス、果樹類(かき・ハウス栽培みかん)などにおいてもネギアザミウマの被害が深刻化しており、その中には、ピレスロイド剤に対し抵抗性が発達した個体群も確認されている。ここ数年、北海道内においても、たまねぎやねぎだけでなくアスパラガスやキャベツにおいても大きな被害が生じた事例や、ピレスロイド剤で十分な防除効果が得られない事例も報告されている。また、道内で採集された個体群のうち一部個体からピレスロイド剤抵抗性遺伝子が検出され、催芽ソラマメによる感受性検定においてピレスロイド剤への感受性低下が示唆された。

 近年、ねぎにおいて本種は多発傾向が継続しており、特にたまねぎの栽培も盛んな空知地方では多発傾向が著しい。平成22年は6月以降高温が続いたが周期的に強い降雨もあり、たまねぎでは平年並の発生にとどまったものの、8月下旬以降、高温傾向が10月中旬まで持続し、この時期に収穫期を迎えるねぎでは被害が多発した。本年秋期の発生状況から、越冬密度は高いことが予想される。通常、キャベツなどの野菜類では本種を防除対象とした薬剤散布はおこなわれないが、夏季の高温少雨の気象条件下において急速な密度増加により、特に8月以降収穫期を迎える作型では、大きな被害が生じる危険性があるので、ほ場をよく観察するなどの注意が必要である。

 本種は薬剤の抵抗性が発達しやすい害虫であり、道外個体群においてはピレスロイド剤以外の薬剤においても感受性低下が報告されている。元々道内に分布していたものとは遺伝的に異なる系統のネギアザミウマが道内でも確認されていることから、薬剤の選択にあたっては、作用機作の異なる薬剤によるローテーション散布を徹底する。また、ピレスロイド剤においては、既に効果低下が認められる地域以外でも、本系統剤の連用・多用は避け、散布後は効果確認を心がける。

野菜類のネギアザミウマ

写真 ネギアザミウマによるキャベツの被害 (中央農試 武澤氏 原図)


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(6)おうとうの灰星病

 平成22年はおうとうの灰星病が全道各地で近年になく多発し、果実腐れにより大きな被害を受けた。その要因として、融雪の遅れ、その後の降雨により第一次伝染源の子実体形成が良好で花腐れ感染に好適であったこと、さらに5月下旬〜6月上旬の低温と多湿によって花落ちが悪かったほか、中旬以降は高温経過と断続的な多雨に加え、日本海側では海霧が発生し、幼果期の発病を助長したことなどがあげられる。また、本病の重点防除時期である開花期前後の散布間隔が開いた園地や幼果期防除に耐性菌が報告されているチオファネートメチル剤を使用した園地が多かったことも多発の要因と考えられる。

 以上のことから、樹冠下に落ちた罹病果などの伝染源がかなり多くなると予想され、伝染源低下のためには、融雪を早めるなどの園地乾燥に努め、子のう盤形成を抑制させるなどの対策が必要である。また、多発により収穫を放棄した園地も多く、罹病果(ミイラ果)が樹上に残存していると考えられ、休眠期剪定時にミイラ果を園外へ搬出するなども重要な対策の一つである。

 薬剤の散布に当たっては開花期前後の重点防除時期(開花直前と満開3日後)を再確認し、花腐れ防除を徹底する必要がある。加えて、幼果期の気象条件にも注意し、多湿条件が見込まれる場合は薬剤防除を励行するが、チオファネートメチル剤は基幹防除剤としない。

 なお、プロシミドン剤では低感受性菌が分離されたことから(「新たに発生を認めた病害虫」を参照)、近隣の農業改良普及センターの指導に従い、本剤の今後の使用に留意する必要がある。

おうとうの灰星病

写真 灰星病の病徴 (花・野菜技術センター 西脇氏 原図)


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(7)果樹の炭疽病

 近年、果樹での炭疽病(ぶどうでは晩腐病)の発生が目立ち始めている。炭疽病菌のうち、Colletotrichum gloeosporioidesGlomerella cingulata)による炭疽病は道内でも古くから知られており、平成22年にもりんごとなし及びぶどうで発生が認められた。これに加えて、C.acutatum による炭疽病の発生事例が増えており、平成14年にプルーン、平成20年にはりんごとマルメロ、平成22年にはおうとう(「新たに発生を認めた病害虫」を参照)で新たな被害を確認した。本種による炭疽病は道南地域で多く確認されており、この地域での被害は広域に拡大している傾向にある。

 炭疽病菌は罹病組織内で越冬し、翌春ここに形成された分生子塊が一次伝染源となる。高温と多雨が伝染と発病を助長し、雨の飛沫などによって付着した分生子から菌糸が侵入して新たな病斑を形成する。主に果実に発生し、褐色で円形の陥没した病斑を形成して、病斑部分にオレンジ色の分生子塊を生じることが多い。また、収穫時には外観上健全であっても、貯蔵中に発病することがある。プルーンでは葉の病徴も顕著であり、退緑、褐色斑点、せん孔などの症状を呈する。

 既に道内では、りんご、ぶどう、なし、西洋なし、おうとう、もも、マルメロ、プルーンで炭疽病の発生が確認されている。しかし、これまで本病の発生が少なかったことから、ほとんどの樹種で防除対象病害としての意識が低かったと考えられる。このため先に示した症状に注意し、症状が見られる場合には近隣の農業改良普及センターに診断を依頼して、本病の発生を認識することが重要である。更に、発病果の摘み取りや薬剤散布などの対策を講じて、本病拡大の防止に努めることも重要である。なお、上に示した樹種のうち、マルメロ以外の樹種では、本病に対する薬剤が登録されている。

果樹の炭疽病

写真 炭疽病の病徴 (上:おうとう,下:マルメロ,道南農試 三澤氏 原図)



過年度の特に注意を要する病害虫


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