北海道病害虫防除所 北海道立総合研究機構 |
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平成21年度に特に注意を要する病害虫 |
(1)てんさいの西部萎黄病 テンサイ西部委黄病は昭和40〜50年代初め頃に網走支庁管内、平成元〜5年に胆振支庁管内等でそれぞれ多発したが、今回は十数年ぶりの多発である。十勝支庁管内では8月中旬ごろから広範囲に黄化症状が観察されるようになり、7町30ほ場から黄化株の葉を採種してELISA検定を行った結果、29ほ場のサンプルで陽性反応が認められた。ほとんどの地域では株単位に点在するか坪状に発生しているほ場が散見される程度であったが、一部の多発地域ではほとんどのほ場で発生が認められ、全面が黄化するほ場も散見される状況であった。このほか網走支庁管内及び胆振支庁管内でも発生ほ場が目立ち、網走農業改良普及センター本所の調査によると、8 月に黄化症状を確認できたほ場では糖量が減少し、その程度は平成6年指導参考成績と同程度の約30%減であった。また、十勝、網走、胆振支庁管内では8〜9月に、黄化したてんさい葉の葉裏に密集しているモモアカアブラムシが観察された。 本病はビート西部萎黄ウイルス(BWYV)によるウイルス病で、モモアカアブラムシによって永続的に伝搬される。接種試験によるとウイルス接種後約10日でウイルスが回収されるようになり、約20日後に黄化症状を発症するとされ、8月中旬以降の感染は病徴が不明瞭になるとされている。 本病の対策として保毒源の特定とその除去が最も重要である。BWYVの寄主範囲はほうれんそう、はくさい、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツなどが報告されており、保毒した個体がハウス等で越冬した場合には保毒源となり得る。さらに、ビートトップが生き残る地域では、てんさいの罹病茎葉も保毒源となり得る。これらから、本病が多発した地域では、保毒源となり得る野菜ハウスのビニールをはぐなどして越冬作物を枯死させる、ほ場に放置された越冬作物やビートトップは融雪後に反転耕起して完全に土中に埋めるなどの対策を行うことが必要である。次に、アブラムシ防除による感染防止対策が重要であり、てんさいの育苗期における殺虫剤の苗床灌注が本病の軽減に有効である。 過去の本病多発事例では終息までに数年を要しており、上記の耕種的対策による保毒源の除去と薬剤による防除を継続することが必要と考えられる。 写真 上:てんさいの西部萎黄病の症状、下:モモアカアブラムシ |
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(2)いちごの炭疽病 いちごの炭疽病は主にGlomerella cingulata(=Colletotrichum gloeospolioides) およびColletotrichum acutatumの2種類の糸状菌によって発生する重要病害である。道内では平成10年に十勝支庁管内でC. acutatumの葉枯れ性の炭疽病、平成18年に檜山支庁管内でC.acutatumによる萎凋性の炭疽病、平成19年に空知支庁管内でG. cingulata による萎凋性の炭疽病の発生が確認された。 本病の病原菌の中で特に病原性の強いG. cingulata による炭疽病の病徴は、葉では汚斑状の黒色斑点、ランナーや葉柄には黒色の陥没した紡錘形病斑が認められ、クラウンが侵されると周囲から黒褐色に変色、葉は生気を失い萎れ、やがて株全体が萎凋する。本菌は水滴などで伝染し、発病すると萎凋・枯死に至るため府県では大きな被害をもたらしており、本病菌が道内で定着するといちご生産を揺るがす大きな問題となる可能性がある。なお、これらの2種の菌による炭疽病は他の作物にも発生が認められているが、一部を除きそれらの菌のいちごへの病原性は無いあるいは弱い場合が多く、病原性は分化していると考えられる。 G. cingulata による炭疽病が発生した空知支庁管内の2ほ場の事例では親苗として府県から導入した苗に本病が発生し、一方のほ場ではその子苗への二次感染も認められた。苗の導入元の府県では本病菌による炭疽病が発生していること、これまで道内では本菌による炭疽病は発生していないことから、感染していた苗が持ち込まれた可能性が高いと考えられる。 近年北海道では加温促成栽培に適した苗を本州から導入する事例が数多く認められる。発生地から苗を導入する場合は一見無病徴でも潜在感染している可能性があり、本病が侵入する可能性は非常に高いと考えられる。今後も府県の苗の導入が続くと予想されること、すでに道内で発生が確認されていることから本病に類似した症状が認められた場合は普及センターを通じて農業試験場、病害虫防除所に検定を依頼し、本病と確認された場合は、防除の徹底、発病苗の処分、土壌消毒などによって汚染の拡大を食い止めることが重要である。また、苗の導入についてもできるだけリスクの少ない苗を利用し、感染苗の持ち込みに十分注意を払う必要がある。 写真 上:いちごの炭疽病の萎凋症状、下:罹病株のクラウン内部 |
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(3)てんさいのアシグロハモグリバエ(主産地での発生地域拡大) アシグロハモグリバエは、多くの作物を加害する広食性の侵入害虫で、効果的な防除薬剤が限られる難防除害虫である。本種は道内の露地では越冬が困難であるが、平成13年に胆振支庁管内で発生が確認されて以降、空知南部や石狩以南の比較的温暖な地域を主体に毎年発生地域を拡大している。 平成20年、新たに網走支庁管内4市町村で、てんさい・ばれいしょに本種の発生が確認された。平成16年以降、十勝支庁管内でもアシグロハモグリバエの発生が継続しており、道内の主要なてんさい栽培地帯全域に発生が広まりつつある。既発生地での事例から、網走支庁管内でもてんさいなどの露地作物で被害が顕在化するのに先立ち、ハウス等の施設で越冬・増殖していたものと考えられ、冬期の気候が寒冷な地域でも施設内で発生が継続する可能性がある。 そのため、てんさいでの被害を拡大させないためには、6月中旬頃からの早期発見と、有効な薬剤による防除が重要である。過去の新規発生地域のなかには数年前からハモグリバエの被害が見られていた事例もあり、現時点で発生が報告されていない地域でも既に発生している可能性がある。ハモグリバエの被害は、幼虫による線状の潜葉痕に先立ち、成虫による食痕が直径1mm程度の白色斑点として多数認められる。未発生地域でも、てんさいでこのような被害が見られた場合や、施設・露地の野菜等でハモグリバエ多発の兆候が認められた場合は、普及センターや農業試験場に診断を依頼し、発生種を特定することが必要である。 写真 左:アシグロハモグリバエによるてんさいの被害葉、右:成虫 |
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(4)各種作物のヘリキスジノメイガ 平成20年8月中旬から9月上旬にかけて、石狩・空知・後志・上川・留萌・網走・宗谷支庁管内で、これまで国内の農作物に被害を認めていない鱗翅目幼虫による作物加害が確認され、ヘリキスジノメイガMargaritia sticticalis (Linnaeus)(別名:Loxostege sticticalis (Linnaeus))と同定された。本種は、ロシアや中国など広い地域において移動性の高い害虫として知られ、牧草をはじめとする様々な作物に被害を与える事例が報告されている。これまで国内における作物加害事例は認められていなかったが、平成20年、幼虫による加害が道央以北の広い範囲で認められたことから、春季以降に成虫が大量に飛来したものと推測される。 平成20年に道内で被害が認められた作物は、大豆・小豆・てんさい・にんじん・アスパラガス・かぼちゃ・ピーマン・コスモス・マメ科牧草など、広範囲に及ぶ。 発生経過は、8月上旬から道内の広い範囲で本種成虫が多量に確認され、その後8月中旬以降に幼虫による各種農作物への被害が報告されるというものだった。 本種の形態は、成虫が体長15mm程度、前翅は褐色で外縁に沿って黄褐色の斑紋が一列配置する。老齢幼虫でも体長は20〜25mm程度で、体色は黒色に近い暗緑色であるが暗色程度には個体差があり、高密度時のアワヨトウ中齢幼虫に似る。 本害虫による被害は、幼虫が葉面を削り取るように食害するため、葉に網目状の穴が開くか白色の表皮が残るといった特徴がみられ、糸を吐いて葉をつづり合わせる事例も観察された。特に発生が多かった地域では、にんじんの茎葉がほうき状になるほどまでに加害された事例も確認された。 平成20年10月8〜10日に本種が特に多発した16市町村の57地点について土繭密度を調査した結果、調査地点0.25u当たりから捕獲された平均土繭数は13.8個だったが、昆虫寄生菌の感染により、採取時すでに、または採取後に死亡した個体が多かった。 本種は局所的に高密度で発生する傾向が認められるため、越冬後の羽化成虫および新たな飛来成虫の発生に注意してほ場を観察するとともに、病害虫防除所から発表する発生予察情報等を活用して、平成21年春以降の発生に注意を払う必要がある。 写真 上:ヘリキスジノメイガ成虫、下:クローバを加害する幼虫 |
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